残置物を片付けてから売ると損する場合がある(売り方で答えが逆になる)

実家の居間に残された家具と段ボール、カーテン越しの朝の光 順番の罠

遠方の実家を売ることになって、まず「中のものを片付けないと」と思う人が多いです。私もそう思ってました。片付けてから不動産屋に見せる、という順番がいちばん自然に見える。

ただ、業者マッチングの運営側から見ていると、この順番でむしろ損をしているケースがあります。片付けに数十万円を使った後に、買取業者から「残置物ごと引き取る前提の価格」を提示されて、片付け代ぶんがそのまま浮いた、という話。仲介で売るか買取で売るかで、残置物の意味が真逆になるからです。

私は清掃・解体まわりの業者マッチングサービスを運営しています。業者を集める側のサービスなので、業者側がどの条件で動くかは内側から見えています。そのうえで、頼む側が損しないように記載します。

この記事の要点

  • 仲介で個人に売る場合は原則として引渡しまでに残置物を撤去するが、買取や解体前提の売却では「現況渡し」「残置物込み買取」が選択肢になり、片付けを先にすると費用が二重に乗る場合がある。
  • 解体費・測量費・仲介手数料は譲渡所得の「譲渡費用」になり得るが、残置物の撤去費そのものは「売るために直接かかった費用」とみなされるかは個別事情で変わるため、税理士または所轄税務署への確認が必要。
  • 相続した空き家を売るときに使える3,000万円特別控除(国税庁タックスアンサーNo.3306)は、昭和56年5月31日以前の建築・売却代金1億円以下・相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却など、要件が細かい。
  • 買取を選ぶなら、片付ける前にまず「残置物あり」のまま査定を取る順番にすると、片付け代と買取価格のどちらが得かを数字で比べられる。
  • 仲介で売るときも、全部を自分で捨てる前に、不動産仲介の担当者に「どのレベルまで残していいか」を先に聞くと、不要な撤去を避けられる。

片付けてから売ると損する、というのはどういう場面か

結論から言うと、売る相手が「解体して建て直す人」や「残置物処分を自前でやれる買取業者」のとき、片付けを先にやると費用がそのまま浮いて消えます。買う側は中身をどうせ全部出すので、きれいかどうかで価格を上げてくれない。

仲介で一般の個人に売る場合は話が逆になります。内覧時に家の中が物で埋まっていると、買主の印象が落ちて成約までの期間が長くなる傾向があります。この場合は片付けた方が売りやすい。

つまり同じ「片付ける/片付けない」という行動が、売り方次第で損にも得にもなる。私はここでいつも、順番を間違えると取り返しがつかない工程だと感じてます。片付けは一度やったら戻せないから。

「現況渡し」と「残置物込み買取」という選択肢

不動産業界では、残置物がある状態のまま引き渡す売り方を「現況渡し」と呼びます。買取業者が家財の処分費を自分で負担する前提で査定を出す場合、売主は片付けを一切やらずに引き渡せます。そう。片付け費ゼロ。

ただし、処分費ぶんは買取価格から差し引かれます。だから片付け代と買取減額のどちらが大きいかを比べる必要がある。ここがいちばん大事なところで、順番としては「片付ける前にまず査定を取る」。これを逆にすると、比較する材料が消えてしまいます。

仲介で個人に売る場合も、全部を自分で持ち出す必要はないケースがあります。買主が家具の一部を使いたい、庭の物置はそのままでいい、と希望することもある。契約前に不動産仲介の担当者経由で、どこまで残していいかを確認してから撤去範囲を決めると、無駄な処分費を抑えられます。

売り方別・残置物の扱いの違い

あなたの売り方ごとに、残置物の扱いがどう変わるかを見ていきます。実際の契約条件や特約で変わる余地はありますが、まずは一般論としての形を押さえておくと、担当者との会話の軸ができます。

売り方残置物の扱い(一般的な原則)片付けを先にやる損得
仲介(一般の個人に売る)引渡しまでに売主が撤去するのが原則。内覧時の印象が成約期間に影響しやすい。基本的に片付けた方が売りやすい。ただし買主が一部残置を希望する場合もあるので、範囲は仲介担当者と相談。
買取(不動産買取業者)残置物込みで買い取る契約が可能な場合がある。処分費は買取価格から差し引かれる。先に片付けると片付け代が丸ごと浮く可能性。査定を先に取るのが安全。
解体前提の売却(土地として売る)買主が建物ごと解体するため、家財も一緒に処分される流れになることが多い。先に片付ける必要性は低い場合がある。契約条件で誰が処分するかを明記する。
隣地所有者・近隣への相対売り条件は当事者間で自由に決める。残置物の扱いも契約次第。一律に判断できない。契約書で誰が負担するかを明文化する。

この表の一番右の列が言いたいのは一つです。売り方を決める前に片付けを始めると、どれが自分の状況だったのか分からなくなる。私の母の実家を処分したときも、同じところで手が止まりました。どこに何を頼めばいいのかが最後まで分からなかった、という感覚が今でも残ってます。

単価の単位が業者ごとで違う話は立米単価が業者で2〜6倍違う理由で分解しました。片付け業者を選ぶ段階でこれを知らないと、見積もり同士が比べられません。

「全部捨ててから査定」が損する構造的理由

買取業者の査定の立て付けを、業者側から見えるまま記載します。買取業者は仕入れた物件を自社で商品化して転売するので、仕入れ時点でかかる処分費を見積もりに織り込みます。残置物があろうがなかろうが、建物を解体して建て替える前提の仕入れなら、家財の有無は仕入れ値にあまり影響しません。

逆に、売主が片付け業者に数十万円払って残置物をゼロにしてから査定を取っても、買取価格はほぼ同じ水準で提示される場合があります。買取業者は自分の処分ルートを持っていて、売主が外部に払う単価より安く処理できるからです。これが構造の一段目。

一段目を知らないと、頑張って片付けた売主は「こんなに片付けたのに価格が上がらなかった」と感じる。業者が意地悪なわけではなく、片付けの価値が買取のロジックに乗らないだけです。だから順番を変える。査定を先に取る。片付けはその後に、必要なら。これだけで数十万円の差が出る場合がある。

仲介で売るときに同じ罠にはまらないために

仲介の場合は片付けた方が売りやすいのは本当なので、片付け自体を否定するわけではありません。ただ、片付けの範囲を自分で決めないほうがいい。「仏壇も物置も家電も全部自分で処分する」と決めてから不動産屋に声をかけると、半分くらいは撤去不要だった、という結果になることがあります。

手順としては、まず仲介会社に査定を依頼して、担当者と現地を見る。そのうえで「どのレベルまで残置物を撤去すれば売れる状態になるか」を担当者の経験値で聞く。それから片付け業者を呼ぶ。この順番だと、過剰な撤去を避けられます。

片付け業者に現地を見てもらうときの遠方からの写真の撮り方は別で書きました。遠方の実家だと現地訪問の回数が限られるので、1回の訪問で複数業者ぶんの材料を揃えておく工夫が効きます。

税金の話(譲渡費用と3,000万円特別控除)

ここは踏み込みすぎると税理士の領域なので、一般論の形でだけ記載します。実際の適用可否は、必ず税理士または所轄の税務署に確認してください。業者への発注の順番を決めるときに、税金のことも頭に入れておくと判断がしやすいからです。

相続した空き家を売ったときに、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。国税庁タックスアンサーNo.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」に要件がまとまっています。昭和56年5月31日以前の建築、売却代金1億円以下、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却、耐震基準を満たすか取り壊して売ること、などが主な条件です。相続人が3人以上の場合は1人あたり最高2,000万円に減額されます(令和6年1月1日以後の譲渡)。

そして譲渡所得の計算では、売却代金から取得費と「譲渡費用」を差し引きます。譲渡費用は「売るために直接かかった費用」で、仲介手数料や土地売却のために行った建物の取壊し費用などが含まれる、と国税庁のタックスアンサーで整理されています。残置物の撤去費が譲渡費用に該当するかは、売却との直接的な関係があるかどうかで判断が分かれるので、ここは個別事情で税理士に確認するほうが安全です。

同じ片付け費用でも、タイミングと目的次第で税金の扱いが変わる余地があります。たとえば「売却のために解体することが決まっていて、その解体の前段として残置物を出した」のと、「売る前に実家を整理したくて片付けた」のとでは、文脈が違う。業者に見積もりを依頼するときに、何のための撤去かをはっきりさせておくと、後で税理士に相談するときの材料になります。

空き家特例の期限は意外とタイトです

相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、という期限は、相続のゴタゴタをやっているとあっという間に過ぎます。遺産分割で揉めている間に、気づいたら期限が近づいている、という流れになりやすい。

片付けと売却の順番を考えるときに、この期限を頭の片隅に入れておくと、「全部きれいにしてから売り出す」という選択を取れないケースがあると気づきます。急ぐなら買取に振る、間に合うなら仲介で丁寧に、という判断は、期限を見てから決めるものです。

片付け業者を解体業者にまとめるかどうか

解体して更地にして売る場合、残置物を解体業者にまとめて頼むか、片付け業者を別に手配するかの選択が出ます。これも「まとめて頼むと楽」と「分けた方が安い」の両方が、業者側の商売の都合でそれぞれ正しい。

解体業者が残置物を扱うと、産業廃棄物の処分区分に乗ることが多く、単価が上がる傾向があります。環境省の通知や自治体の運用で扱いが変わる領域なので、ここは残置物を解体業者にまとめて頼むと割高になる場合に整理しました。「売ってから残置物をどうするか」の判断にも効いてきます。

買取に出す場合でも、買取業者がどのルートで残置物を処分するかで、売主への査定額が変わります。業者マッチングの管理画面側で見ていても、残置物の処分ルートを自前で持っている業者と、外注する業者では、動ける価格帯が明らかに違います。だから買取に出すときは、1社だけに見せず、ルートの違う複数社から取る方が得です。

損しない順番の作り方(実務の流れ)

順番だけ最初に記載します。1. 不動産仲介と不動産買取の両方に「残置物あり」のまま査定を依頼する。2. 査定額と条件を見比べて売り方を決める。3. 売り方が決まってから、片付け範囲を担当者と相談する。4. 必要な範囲だけ片付け業者に見積もりを取る。

これだけ。多くの人は3と4を先にやって、1と2が最後になります。順番が逆になると、「もう片付けちゃったので現況渡しは関係ない」という状態で査定を受けることになる。残置物の有無で動く金額を比較する機会そのものがなくなります。

遠方で現地に何度も行けない人ほど、順番の設計が効きます。1回の現地訪問で、不動産業者と片付け業者の両方に見てもらう。それが難しければ、写真と間取り図で先に査定だけ取る。相見積もりが返ってこない理由については別の記事で業者側の内情から書いたので、依頼書の作り方の参考にしてください。

査定を先に取るときの依頼の仕方

不動産業者に「残置物あり」のまま査定を頼むと、嫌がられるのではないかと心配する人がいます。実際には、買取業者はむしろ現状のまま見るのに慣れています。無理に片付けた写真より、ありのままの写真の方が、正確な価格を出せる。

依頼のときに添える情報は、間取り図、各部屋の写真、残置物の総量が分かる引きの写真、相続状況(相続人の人数と遺産分割の進捗)、売却希望時期の5つで足ります。これだけあれば、仲介向きか買取向きかの一次判断が返ってきます。

それでも片付けを先にやった方がいい場面

片付けを先にやった方がいい場面もあります。全部を「査定が先」と決めつけるのは乱暴なので、代表的なケースを3つだけ。

1つ目は、遺品に金銭的・感情的な価値があるものが明らかに含まれている場合。査定前に貴重品や思い出のものを分けておかないと、現況渡しの流れに乗せた瞬間に処分されてしまいます。これは順番の問題ではなく、品物の問題。

2つ目は、仲介で高めに売ることをすでに決めている場合。買取との比較を初めから選ばないなら、片付け自体を売却の準備として前に出す選択はありえます。ただしこの場合も、どこまで片付けるかは仲介担当者と相談してから。

3つ目は、相続人の間で「とにかく実家をきれいにしたい」という感情面の合意がある場合。経済合理性だけで決める話ではないので、相続人同士の気持ちが片付け優先で揃っているなら、それはそれで正解です。私はこの3つ目を軽く見ないほうがいいと思ってます。実家を片付けることは、ただのコストじゃないので。

最後に、判断が分かれるところ

最後に、答えが一つに決まらないところを1つ残しておきます。「現況渡し」で引き渡すとき、売主の責任で処分するものと買主に引き継がれるものの境目をどこに置くか。契約書の特約でどこまで細かく書くべきか、という話です。

買取業者相手なら特約は粗くてもトラブルになりにくいです。処分慣れしているので。一方、個人間取引や親族間売買で現況渡しを選ぶと、後から「この家具は要らないから撤去してほしい」と言われるケースが出てきます。契約時に細かく書くほど安全ですが、細かすぎると交渉が止まる。この塩梅は正解がなくて、担当する不動産仲介と相性のいい線を探すしかない、と感じてます。

ここから先は宅建業者の領域なので、具体的な特約文言は担当の不動産業者と相談してください。私は業者マッチング運営の立場から、片付けと処分の順番だけに絞って記載します。

よくある質問

Q. 残置物があると、本当に売れないのですか?

法律上、残置物があっても不動産を売ること自体は可能です。仲介で一般の個人に売る場合は、引渡しまでに売主が撤去するのが原則で、片付けた方が成約しやすい傾向があります。買取業者が相手なら、残置物込みで買い取る「現況渡し」が選べる場合があります。「売れない」ではなく「売り方で扱いが変わる」が正確です。

Q. 片付け費用は譲渡費用として控除できますか?

国税庁のタックスアンサーでは、譲渡費用は「売るために直接かかった費用」と整理されています。仲介手数料や、土地を売るための建物の取り壊し費用は含まれます。残置物撤去費が該当するかは、売却との直接的な関係があるかどうかで判断が分かれるため、個別の事情を税理士または所轄の税務署に確認するのが安全です。断定しないほうがいい領域だと思ってます。

Q. 相続空き家の3,000万円特別控除は、残置物があっても使えますか?

特例の要件は、建物の建築時期、売却代金、売却時期、耐震性または取り壊しの有無などで決まります(国税庁タックスアンサーNo.3306)。残置物の有無が直接の要件には含まれていませんが、売却時の状態や契約内容が要件判定に影響する可能性があるので、要件を満たすかは税理士または所轄の税務署に確認してください。令和6年1月1日以後は、売主が取り壊さず買主側で耐震改修や解体を行うケースも対象になる場合があります。

Q. 買取と仲介、どちらを先に当たるべきですか?

片付けの順番を決めたいなら、両方に同時に当たるのが安全です。買取だけに頼むと、仲介で高く売れる物件を安く手放す可能性があります。仲介だけに頼むと、現況渡しの選択肢が最初から消えます。査定時点では売り方を決める必要はないので、まず両ルートから数字を取る。そのうえで、期限と手間と価格のバランスで決めるのが現実的です。

Q. 片付けを途中までやってしまいました。どうすればいいですか?

途中からでも、残りの部分で判断ができます。まず現状の写真を撮って、不動産仲介と不動産買取の両方に査定を依頼してください。「残置物がこの程度残っている状態」のまま見てもらって、現況渡しの選択肢がまだ残っているかを確認する。全部片付けきる前なら、まだ順番を立て直せます。片付けの手は一度止めて、査定の結果を見てから再開するのを勧めます。

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