空き家の片付けを進めていると、タイミングよく「ご不要の家電・家具、無料で回収します」の軽トラが近所を回っていたり、ポストに同じ内容のチラシが入っていたりします。一瞬、助かったと思う。相続した実家の荷物をどう出すかで止まっているときほど、無料という言葉は刺さります。
ただ、頼む前に一度止まった方がいい話です。無料という値付けには理由があります。知らないまま呼ぶと、積み込みが終わった後で高額請求されることがある。積んだ荷物が山の中に捨てられて、不法投棄の原因者として自分の名前が出てくる場合もある。
私は業者マッチングサービスの運営側にいます。発注する側ではなく、業者が集まる場所を回している立場です。管理画面から見ていると、まっとうに許可を持って動いている業者ほど「無料回収」を名乗らないし、名乗れない事情がある。そのうえで、頼む側が損しないように仕組みの側から書きます。
この記事の要点
- 家庭から出る不用品(一般廃棄物)を回収するには、市区町村ごとの「一般廃棄物収集運搬業」の許可が必要で、環境省は無許可業者を利用しないよう明示している。
- 「無料」を成り立たせているのは主に3つ。金属スクラップ等の資源売却益、中古品としての転売益、積み込み後の追加請求。前の2つは合法に成立する場合もあるが、家庭ごみの回収自体が無許可なら全体として違法になる。
- 産業廃棄物収集運搬業許可や古物商許可だけでは、家庭から出るごみを回収することはできない。この誤解を利用する業者がいる。
- 家電リサイクル法の対象4品目(エアコン・テレビ・冷蔵庫冷凍庫・洗濯機衣類乾燥機)は、無料回収と称して引き取ると不適正処理につながりやすく、環境省が繰り返し注意喚起している。
- 空き家の残置物を本気で片付けるなら、無料回収は使わない。許可の種類と見積もりの立て付けを開示できる業者に有料で頼む方が総額で安く、トラブルも起きにくい。
結論を先に。無料回収は「ビジネスとして無料」ではない
無料回収は、収益がゼロで回っているわけではありません。別のところで取り返しているから無料に見える、というだけです。頼む側から見ると「どこで取り返されているか」が見えないので、無料に見える。
取り返し方は大きく3種類あります。資源として売れる金属を抜いて売る、中古品として売れるものを転売する、積み込みが終わった後に「これは有料対象です」と追加請求する。この3つのどれかか、組み合わせか。業者側の売上の立て付けを分解すると、それ以外のパターンはほぼ無い。
問題になるのは、空き家の残置物のような荷物です。「売れる資源が少なくて、売れない家庭ごみが大半」のものを無料で引き取ってもらうと、収支の帳尻を合わせる手段が追加請求か不法投棄のどちらかに寄りやすい。構造として寄りやすい、という話で、特定業者がそうだと言っているのではありません。
そもそも家庭ごみを「業として」回収するには許可がいる
ここが一番の土台です。環境省は公式ページでこう書いています。家庭から出るごみは市区町村の責任で処理する決まりで、市区町村の許可や委託を受けずに回収業者が収集することは認められない(環境省「廃家電や粗大ごみなど、廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください!」)。
必要なのは「一般廃棄物収集運搬業」の許可です。これは市区町村ごとに出す許可で、全国共通ではない。空き家が市川にあるなら市川の許可、松本にあるなら松本の許可。荷物が出る場所の自治体の許可が要ります。
自治体の注意喚起も、言い回しはほぼ共通です。宇都宮市は、無料回収や「なんでもOK」と広報して空き地やトラックで不用品回収をしている業者のほとんどが無許可の違法業者だと書いている。千葉市は、軽トラで巡回する業者やネット・ポスティングで宣伝する業者は一般廃棄物処理業の許可を受けていない可能性が高い、としている。表現は違っても、言っている中身は同じです。
「産廃許可あります」「古物商です」では家庭ごみは回収できない
ここが一番、誤解されやすい。
産業廃棄物収集運搬業の許可は、工場や事業所から出る産廃を運ぶための許可です。古物商許可は中古品の売買をするための許可で、警察(公安委員会)が出す。どちらも、家庭から出るごみ(一般廃棄物)を回収する根拠にはなりません。向日市も、産業廃棄物の許可や古物商の許可を持っていても家庭から出たごみや不用品を回収することはできない、とはっきり書いています。
にもかかわらず、「産業廃棄物収集運搬業許可取得済み」「古物商許可◯◯号」とチラシや車体に大きく書いて、家庭の不用品を無料で回収している業者がいます。この書き方は、嘘ではないんです。許可はたしかに持っている。ただ、その許可は「家庭ごみを回収していい許可」ではない。頼む側が勘違いするのを前提にした表示です。
見分け方は一つで、頼みたい自治体のサイトで「一般廃棄物収集運搬業 許可業者一覧」を検索すると、許可業者の名前が公開されています。そこに載っていなければ、家庭ごみは回収できない事業者です。
「無料」の内訳を3パターンに分解する
では、無料の裏側で何が起きているのか。業者側の売上の立て方で分けると、以下の3つに整理できます。
| タイプ | 収益の出所 | 頼む側のリスク |
|---|---|---|
| 資源抜き型 | 家電や金属くずを解体し、銅・アルミ・鉄などを金属スクラップとして売却 | 売れる金属だけ抜いて残りを不法投棄される場合がある。原因者として自分の名前が出る可能性 |
| 中古転売型 | まだ使えるものを中古品として国内外に転売。古物商許可はあるが一般廃棄物許可は無いことが多い | 家庭ごみの回収自体が無許可で違法。良品を無料で持って行かれ、不要品だけ残される |
| 追加請求型 | 積み込み後に「これは対象外」「運搬料は別」として高額請求 | 積み終わってから言われると断りにくい。トラブル事例として自治体が繰り返し注意喚起 |
資源抜き型と中古転売型は、業者側のビジネスとしては成り立ちます。壊れた家電から銅線を抜いてスクラップ業者に流す、まだ動く冷蔵庫を海外に輸出する、という流れ自体はある。ただし、家庭から回収する入口のところで一般廃棄物収集運搬業の許可が無ければ、入口が違法なので全体として違法になります。
追加請求型は、わかりやすく悪い。滋賀県日野町も、無料回収をうたう業者を利用して高額な料金を請求されたり、回収したごみを不法投棄されたりするトラブルがある、と書いています。無料を信じて積み込ませたら、後から数万円単位の請求が来るパターンです。
空き家の残置物では、無料モデルが構造的に成り立ちにくい
相続した実家の片付けで出てくる荷物を思い浮かべてください。古いタンス、押し入れの布団、衣類、食器、紙類、仏壇まわりの小物、古い家電。この中で、業者が転売や資源化でお金に変えられるものは一部です。古い家具の多くは中古市場で値がつかないし、布団や衣類は資源としても安い。
つまり、空き家の残置物は「無料で引き取っても業者が儲からない荷物」の典型です。それでも無料で引き取ります、と言われたら、収支を合わせる手段が追加請求か不法投棄に寄るしかない。業者側の計算の問題として、そういう構造になっています。
これが「売れそうな家電が1、2点ある」程度の軽い処分なら、資源抜き型の業者が本当に無料で持って行くこともある。ただ、空き家一軒分の荷物を無料で、は構造的に無理です。
家電リサイクル法の4品目は、特に無料回収を信じない
エアコン、テレビ(ブラウン管・液晶・プラズマ)、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機。この4品目は家電リサイクル法の対象で、処分にはメーカーが設定したリサイクル料金と、収集運搬の実費がかかります。向日市も、この4品目と家庭用パソコンについてはメーカー等が引き取る、と明記しています。
つまり、まっとうに処分すればお金のかかる品目です。それを「無料」で引き取ると宣伝している時点で、リサイクル料金を払わずにどこかで処分していると考える方が自然です。環境省が公式ページで「廃家電や粗大ごみなど、ご家庭の廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください」と繰り返し出しているのも、ここが入口になっているからです。
フロンが入っているエアコンや冷蔵庫を解体して、フロンを大気に放出したうえで鉄と銅だけ抜く。この処理は環境破壊そのもので、法律でも禁じられています。ただ、無料回収のモデルで4品目を集めると、どこかでその処理をしないと数字が合わない。
自治体別・立場別で、答えが少しずつ変わる
無料回収を使うかどうかの判断は、立場で変わります。空き家まわりでよくある4つを並べます。
| 立場 | 無料回収への向き合い方 | 代わりに取るべき動き |
|---|---|---|
| 相続人(遠方) | 推奨しない。立ち会いが難しく、積み込み後の追加請求や抜き取り確認ができない | 一般廃棄物収集運搬業の許可を自治体サイトで確認した業者に有料で発注 |
| 売主(現況渡し検討中) | 推奨しない。不法投棄の原因者として売主の名前が追跡される可能性 | 買主と「残置物をどうするか」を契約前に合意。片付けてから売ると損する場合もある |
| 貸主(賃貸退去後) | 借主の残置物を無断で処分できない前提。無料回収は論外 | 借主との残置物処理合意書を取ったうえで、許可業者に発注 |
| 自分で住んでいて家電1〜2点を処分 | 家電リサイクル券での正規ルート、または自治体の粗大ごみが安全 | 家電量販店の引き取り、自治体収集、認定事業者を使う |
空き家の片付けで、相続人・売主・貸主の立場に立っている人が無料回収を使うのは、ほぼ常に損する側に転ぶ構造です。立場ごとの考え方は残置物を誰が片付けるかの4パターンにまとめています。
不法投棄が起きたとき、追跡されるのは「出した人」でもある
ここは地味に重い話です。
無許可業者に渡した荷物が山の中に捨てられて、中から郵便物や宅配の送り状、通帳の控えが出てくる。そうやって原因者をたどれてしまいます。空き家の荷物は、個人情報が入ったまま出すものが多い。相続人の名前が書かれた封筒、固定資産税の通知、医療関係の書類。
自治体のサイトでも、違法業者に渡したごみが不法投棄されると、排出者(出した人)の責任を問われる場合がある、という書き方が繰り返されています。無料で助かった、で終わらない可能性がある、ということです。
相続した家の整理は、個人情報がむき出しの荷物を大量に出す工程です。この工程を、素性のわからない相手に無料で任せるのは、金額の損得よりも先に避けた方がいい。
では、どこに頼むか。許可の見分け方と見積もりの立て付け
まっとうな業者を見つけるのは、そんなに難しくない。チェックするのは3つだけです。
- 荷物が出る自治体の「一般廃棄物収集運搬業」許可業者一覧に載っているか。載っていないなら、委託先として誰を使うかを答えられるか。
- 見積もりが「◯立米いくら」「◯トンいくら」の単価で書かれているか。一式◯◯円だけで出してくる業者は、後から積み上がりやすい。
- 家電リサイクル法対象4品目を回収する場合、リサイクル券の控えを渡せるか。
この3つを質問して、濁さずに答えられる業者なら、少なくとも入口のところはクリアしています。立米単価の読み方は、業者で2〜6倍の差が出る理由も含めて別の記事で分解しました。
見積もりを頼む段階で業者側に先に渡しておくと返事と価格が変わる6項目をこちらにまとめています。無料回収の広告に反応する前に、こちらを揃えて3社に投げる方が、総額では必ず安く済みます。
私は業者を集める側のサービスを運営しているので、業者側がどの条件で返事を出し、どの条件で黙るかは管理画面から見えています。そのうえで書いていますが、無料回収と比べて有料の正規業者が「同じ荷物で何倍も高い」ということは、空き家の残置物規模では起きません。無料と有料ではなく、無料の内側にある追加請求と不法投棄のリスクを含めて比べる話です。
それでも「本当に無料で持って行ってくれた」ケースはある
公平を期すために書きます。
比較的新しい家電(製造から5年以内くらい)が動く状態で複数あって、それ以外の家庭ごみが少ない、というケースは、資源抜き型や中古転売型の業者にとって本当に利益が出る荷物です。この条件なら、無料で引き取って終わり、ということもある。
ただ、これは「売れる物だけを無料で引き取ってもらう」話であって、空き家の片付けとは別物です。空き家の片付けで出てくるのは、売れない荷物の方が圧倒的に多い。無料回収で売れる物だけ持って行かれた後、売れない残りをもう一度誰かに頼む羽目になると、トータルの労力は増えます。
この見極めは、頼む側が自分の荷物の中身を把握していないと難しい。だから結局、空き家一軒丸ごとなら、最初から許可を持った業者に有料で全部任せる方が、話が速い。
ここは私も決めきれていません
一つだけ、答えを閉じきらずに残します。
無料回収をなくすべきか、という問いには、私はまだ答えを持っていません。資源抜きや中古転売そのものは、循環経済の観点では必要な動きで、全部を規制で潰すとリユースの市場も細くなる。入口の許可の問題と、リユース市場の意義を、どう分けて評価するか。業者を集める側として管理画面を見ていても、ここは割り切れていない。
ただ、空き家の片付けという場面に限れば、無料回収は使わない方がいい。この判断は変わりません。構造として損する側に転びやすいからです。
よくある質問
Q1. チラシに「産業廃棄物収集運搬業許可取得」と書いてあれば安心ですか?
家庭ごみの回収にはなりません。産業廃棄物収集運搬業の許可は、工場や事業所から出る産廃を運ぶ許可で、家庭から出るごみ(一般廃棄物)を回収する根拠にはならないと、複数自治体が明記しています。古物商許可も同じで、警察が中古品売買に対して出す許可であって、家庭ごみの回収許可ではありません。
見分け方としては、荷物が出る自治体のサイトで「一般廃棄物収集運搬業 許可業者一覧」を検索し、そこに社名が載っているかを確認するのが確実です。載っていなければ、家庭ごみは扱えません。
Q2. 無料と信じて積み込んだ後に高額請求されたらどうすればいいですか?
その場で現金を払わず、国民生活センターや消費生活センター(局番なし188)に相談してください。自治体の環境担当課にも連絡を入れると、無許可業者の実態把握につながります。
積み込み前に書面の見積もりを取っていない場合、交渉は難しくなります。だからこそ、見積書と許可の確認を前段に置くのが大事です。
Q3. 空き家の遠隔片付けで、現地に立ち会えません。無料回収を頼むのはやはり危険ですか?
危険です。立ち会いが無いと、積み込みの最中に何を持って行かれ、何が残されたかの確認ができません。追加請求されたときにその場で反論もできない。遠方の空き家ほど、許可業者に有料で発注して、作業前後の写真を提出してもらう形にする方が安全です。
現地調査なしでどこまで見積もりを握れるか、どこから現地に入れるべきかは、別の記事に書いています。
Q4. 冷蔵庫やテレビを無料で引き取ると言われたら、受けていいですか?
家電リサイクル法対象4品目(エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機)は、正規に処分するとリサイクル料金と収集運搬料がかかる品目です。それを無料で引き取る、というのは、料金を払わずにどこかで処分していることになる可能性が高い。環境省は無許可業者の利用を控えるよう明示しています。
家電量販店の引き取り、自治体の案内する指定引取場所、認定事業者を使うのが正規ルートです。急がないなら、こちらを使ってください。
Q5. 一般廃棄物収集運搬業の許可が無い業者に頼むと、頼んだ側も罰せられますか?
直接の罰則は業者側ですが、無許可業者に渡したごみが不法投棄された場合、排出者(出した人)の責任を問われることがある、と複数の自治体が注意喚起しています。空き家の荷物は郵便物や通知書類など個人を特定できる情報が多く、現場から排出者をたどりやすい点にも注意が必要です。
法的な扱いの詳細は、自治体の環境担当課や弁護士の判断になります。この記事では一般的な話までにします。
このページで参照した一次情報
- 環境省「廃家電や粗大ごみなど、廃棄物の処分に『無許可』の回収業者を利用しないでください!」
- 宇都宮市「違法な不用品回収業者にご注意ください」
- 千葉市「違法な不用品回収業者にご注意ください」
- 向日市「違法・悪質な不用品回収業者にご注意ください」
- 滋賀県日野町「違法な不用品回収業者にご注意ください」
